PMからPMOへ移った3つの理由|32年の現場で選んだキャリア

PMとPMOの一般的な違い

PM(プロジェクトマネージャー)は一つのプロジェクトを始めから終わりまで責任を持って推進する役割です。PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)は複数のプロジェクトを横断的に支援・管理し、標準化や品質向上を担当します。

教科書的にはこう説明されます。ただ私は32年間IT業界にいて、この定義だけでは説明しきれない現実を数多く見てきました。PMからPMOへのキャリア移行は、単なる役割の変更ではありません。働き方、求められるスキル、プロジェクトとの向き合い方が根本的に変わります。

私自身、40代になってPMOを本格的に担当するようになりました。それまではSE、PL、PMとして現場で動いてきました。今回は、なぜ私がPMを続けずにPMOへ移ったのか、その理由を実体験から語ります。

現場で見たPMとPMOの本当の違い

PMは戦い、PMOは環境づくり

一般的な説明では、PMは実行者でPMOは支援者と言われます。しかし現場ではもっと生々しい違いがあります。PMは日々の戦いです。顧客折衝、要件調整、トラブル対応、ベンダーとの交渉。毎日何かが起きて、その都度判断を迫られます。

PMOは戦う場所が違います。個別のトラブルに飛び込むのではなく、トラブルが起きにくい環境を作ることが仕事です。標準プロセスの整備、リスクの早期発見、複数プロジェクトの調整。地味ですが、この違いは働き方そのものを変えます。

私がPMをしていた頃、毎日がfirefightingでした。朝出社すると必ず何かの問題が待っています。顧客からの仕様変更依頼、開発チームからの遅延報告、インフラ障害の影響調査。その日の予定はすぐに吹き飛びます。

PMは個別最適、PMOは全体最適

PMは自分のプロジェクトを成功させることが最優先です。他のプロジェクトのことは基本的に考えません。予算、人員、スケジュール、すべて自分のプロジェクトのために交渉します。これは当然のことです。

PMOは逆です。一つのプロジェクトだけを見ていては仕事になりません。A案件とB案件で同じ技術者を取り合っている、C案件の遅延がD案件のリソース計画に影響する。こうした全体の調整がPMOの役割です。

この視点の違いは、30代後半から40代にかけて私の中で大きくなっていきました。個別のプロジェクトを成功させることにやりがいを感じる一方で、組織全体の非効率さが気になり始めたのです。

PMは短距離走、PMOはマラソン

PMの仕事は基本的に期間が決まっています。半年、1年、長くても2年程度でプロジェクトは終わります。その間は全力疾走です。終われば次のプロジェクトに移ります。

PMOは長期戦です。組織の仕組みを変えるには時間がかかります。今日整備したプロセスが効果を発揮するのは3ヶ月後、半年後です。すぐに結果が出ないことに耐える必要があります。

年齢を重ねるにつれて、私は短距離走よりマラソン型の働き方に魅力を感じるようになりました。瞬発力より持久力、個人の成果より組織の成長。この価値観の変化が、PMOへの移行を後押ししました。

私がPMからPMOに移った理由

40代になって私はPMOを本格的に担当するようになりました。PMとしてのキャリアを続ける選択肢もありました。しかし私はPMOを選びました。その理由は3つあります。

理由1:同じ失敗を繰り返す現場を変えたかった

PMを10年以上やっていると、同じパターンの失敗を何度も目にします。要件定義の甘さ、テスト工程の軽視、リスク管理の不足。プロジェクトが変わっても、失敗の原因は驚くほど似ています。

PMとして自分のプロジェクトだけ成功させても、組織全体は変わりません。次のPMがまた同じ失敗をします。私は個別の成功より、組織の成功率を上げることに価値を感じ始めていました。

私は40代半ばまでSE、PL、PMを経験し、その後PMOを本格的に担当するようになりました。PMを続ける選択肢もありました。むしろ、周囲からはPMのままキャリアを積むことを勧められた時期もあります。それでもPMOを選んだ理由は3つあります。第1は自分の性格との相性です。PMは決断者、PMOは支援者。私は前に出るより、裏方で仕組みを整える方が向いていると感じました。第2は複数プロジェクトを俯瞰したいという願望です。1つのプロジェクトのPMより、複数を横串で見るPMOに関心がありました。第3は長期的なキャリア展望です。50代以降を見据えた時、PMより PMO の方が経験の価値が積み上がると考えました。2023年にはPJM-A資格も取得しました。この選択は、今も正解だったと感じています。

この経験から、私は個別プロジェクトの成功を追うより、組織全体の仕組みを変えることに関心が移っていきました。PMOとしての役割に魅力を感じ始めたのはこの頃です。

理由2:複数プロジェクトを見渡す視点が面白かった

PMは自分のプロジェクトに集中します。それ以外のことは基本的に見えません。しかしPMOとして複数のプロジェクトを横断的に見ると、面白いことが見えてきます。

A案件で成功した手法がB案件では全く機能しない理由。C案件の遅延の本当の原因がD案件のリソース配分にある事実。個別に見ていては気づかない関係性が見えてきます。

私は元々システム全体を俯瞰して設計することが好きなタイプでした。SEとして要件定義をしていた頃から、部分最適より全体最適を考えることに面白さを感じていました。PMOの仕事はこの性格に合っていました。

理由3:年齢とともに働き方を変えたかった

これは正直な理由です。40代になって、20代30代と同じ働き方を続けることに無理を感じ始めました。PMの仕事は体力勝負の面があります。夜間のトラブル対応、休日の緊急対応、長時間の顧客折衝。

PMOの仕事も楽ではありません。しかし、突発的な対応は相対的に少なくなります。計画的に仕事を進めやすくなります。年齢を重ねても続けやすい働き方だと感じました。

また、PMは若手の成長機会としても重要です。40代50代がPMポジションを占め続けるより、PMOとして若手PMを支援する方が組織にとって価値があると考えました。

PMOに移って見えた具体的な変化

PMからPMOへ移った3つの理由|32年の現場で選んだキャリア - 詳細図

ケース1:標準化で組織全体の生産性が上がった

PMOとして最初に取り組んだのは、進捗報告のフォーマット統一でした。それまで各プロジェクトがバラバラの形式で報告していたため、経営層は全体状況を把握できていませんでした。

統一フォーマットを導入した結果、複数プロジェクトの比較が容易になりました。リスクの早期発見率が上がり、リソース配分の判断が速くなりました。PM個人の負担も減りました。

一つのプロジェクトの改善ではなく、組織全体の改善。これがPMOの醍醐味です。地味な作業ですが、効果は広範囲に及びます。

ケース2:若手PMの失敗を未然に防げた

ある若手PMが初めて大きなプロジェクトを任されました。私はPMOとして週次で進捗を確認していました。3ヶ月目に気づいたのは、テスト環境の準備が計画に入っていないことでした。

このままではテスト工程で大幅な遅延が発生します。私はすぐに指摘し、計画を修正させました。若手PMは気づいていませんでしたが、私は過去に同じ失敗を何度も見ていました。

PMとして自分のプロジェクトを成功させることと、PMOとして他のPMを成功させること。後者の方が難しいですが、やりがいも大きいと感じました。

ケース3:複数プロジェクトの調整で全体最適を実現

あるとき、A案件とB案件が同時期にインフラ基盤の更改を計画していました。別々に進めれば、作業期間もコストも倍かかります。私はPMOとして両プロジェクトを調整し、基盤更改を統合しました。

結果、作業期間は3分の2に、コストは半分以下になりました。各PMは自分のプロジェクトしか見ていなかったため、この統合案には気づいていませんでした。

全体を見渡せる立場だからこそできる調整です。個別のプロジェクト成功より、組織全体の効率化。PMOの価値はここにあります。

PMとPMOのキャリア選択に対する私の考察

どちらが上位ということはない

PMからPMOへの移行を昇進のように捉える人がいますが、私はそう思いません。PMもPMOも役割が違うだけで、どちらが上ということはありません。求められるスキルも働き方も異なります。

PMには実行力、瞬発力、顧客対応力が必要です。PMOには俯瞰力、調整力、忍耐力が必要です。自分の性格や価値観に合った方を選ぶべきです。

私の場合、40代という年齢と、全体最適を好む性格がPMOに合っていました。しかし30代の頃はPMの方が合っていました。キャリアは固定的なものではなく、年齢や状況で最適解が変わります。

両方経験することに価値がある

私が思うに、PMとPMOの両方を経験することは非常に価値があります。PM経験がないPMOは現場の苦労が分かりません。標準化やルールを押し付けるだけになりがちです。

逆に、PMOの視点を持たないPMは個別最適に陥りやすくなります。組織全体のリソース状況や他プロジェクトへの影響を考えずに行動してしまいます。

私は30代でPMとして現場の苦労を経験し、40代でPMOとして全体最適の視点を得ました。この両方の経験が、今の私の実務能力の基盤になっています。

40代以降のキャリアとして有力な選択肢

IT業界で40代50代になると、キャリアの選択肢は限られてきます。管理職になるか、スペシャリストとして技術を極めるか。しかしPMOという第三の道があります。

PMOは年齢を重ねるほど価値が高まる職種です。多くのプロジェクトを経験し、様々な失敗パターンを知っているからこそできる仕事です。若手にはできません。

私は2023年にPJM-A資格を取得しました。40代後半での資格取得です。PMOとしてのキャリアを本格的に構築するためでした。年齢を理由にキャリアを諦める必要はありません。

組織にPMOが必要な理由

多くの企業はPMOの価値を理解していません。優秀なPMがいればPMOは不要と考えています。しかしこれは間違いです。

PMがどれだけ優秀でも、組織全体の最適化はできません。個別のプロジェクトを成功させることと、組織の成功率を上げることは別の仕事です。PMOがいない組織は、同じ失敗を繰り返し続けます。

私は32年間で、PMOがいる組織といない組織の両方を見てきました。PMOがいる組織の方が明らかにプロジェクト成功率が高く、トラブルも少ないです。個人の能力に依存せず、組織として成功できる仕組みがあるからです。

PMからPMOへの移行を考える際のチェックリスト

最後に、PMからPMOへのキャリア移行を検討している方向けのチェックリストを用意しました。これは私自身が移行を決めた際に考えた項目です。すべてにYesである必要はありませんが、半分以上にYesなら適性があると考えてよいでしょう。

チェック項目 確認ポイント
PM経験は3年以上あるか 現場の苦労を知らないPMOは機能しません。最低3年、できれば5年以上のPM経験が望ましいです。複数の業界や規模のプロジェクトを経験していれば理想的です。
全体最適に興味があるか 個別プロジェクトの成功より、組織全体の効率化に興味があるかどうか。自分のプロジェクトだけを見ていたい人はPM向きです。
地道な改善作業に耐えられるか PMOの仕事は地味です。標準化、ドキュメント整備、プロセス改善。派手な成果はすぐには出ません。この地道さに価値を見出せるかどうか。
他人の失敗から学ぶことができるか PMOは他のPMのプロジェクトを観察し、失敗パターンを見つけて改善します。他人の失敗を責めるのではなく、組織の学習機会と捉える姿勢が必要です。
調整役に回ることに抵抗がないか PMは意思決定者ですが、PMOは調整役です。直接的な権限は少なく、影響力で動かす仕事です。この立場に納得できるかどうか。
長期的視点で物事を見られるか PMは数ヶ月から1年程度の視点ですが、PMOは1年から3年の視点で仕組みを作ります。すぐに結果が出なくても続けられる忍耐力があるか。
複数のことを同時に追える能力があるか PMOは複数プロジェクトを同時に見ます。一つのことに集中するより、広く浅く複数の案件を追う能力が求められます。この働き方が合うかどうか。

私は40代でPMOに本格的に移りました。それまではPMとして現場で動いてきました。移行を決めた理由は、組織全体を変えたいという思いと、年齢に合った働き方を選びたいという現実的な判断でした。

PMとPMOは優劣ではなく、役割の違いです。自分の性格、年齢、価値観に合った方を選ぶことが重要です。両方を経験することで、より深い視点が得られます。キャリアは一度決めたら終わりではなく、状況に応じて柔軟に変えていくものです。

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